ベランダやキャンプ場で、初めて「段ボール燻製」から卒業しようと思ったとき、誰もが一度は立ち止まる分かれ道があります。
それは、SOTOの「いぶし処(ハウス)」にするか、コールマンの「ステンレススモーカー」にするか、という選択です。
どちらも、燻製好きの間では「定番中の定番」と呼ばれる名機です。
しかし、いざ自分が買うとなると、価格も素材も違うこの2つの間で、何日も悩んでしまう気持ちは痛いほどよくわかります。
私もかつて、仕事帰りの電車の中でスマホの画面を何度もスクロールしながら、どちらを相棒に迎えるべきか迷いに迷った一人だからです。
「失敗したくない」「長く使えるものがいい」「でも、高いのを買って飽きたらどうしよう」。
そんな不安がぐるぐると頭を巡っていました。
この記事では、実際に両方のタイプの燻製器に触れてきた経験から、SOTOとコールマンそれぞれの「強み」と「弱点」、そして「どんな暮らしに、どちらが合うのか」を、正直な言葉で比較していきます。
スペックの数字だけでは見えてこない、実際に火をつけ、煙の匂いを嗅いだときの「使い心地」の違いについて、少しお話しさせてください。
燻製愛好家を二分する、2つの名機とは
比較に入る前に、まずは今回の主役である2つの燻製器の立ち位置を整理しておきましょう。
どちらも「箱型」の燻製器であり、熱燻(高温)から温燻(中温)まで幅広くこなせる点は共通しています。
しかし、その設計思想は驚くほど対照的です。
(正確なサイズや最新の価格については、各メーカーの公式サイトもあわせてご確認ください)
(出典リンク)お手軽香房 ST-124(SOTO 公式製品ページ)
ステンレススモーカーⅡ(コールマン 公式オンラインショップ)
SOTO「いぶし処(お手軽香房)」:折りたたみの美学
SOTO(新富士バーナー)の「いぶし処」シリーズ、特にお手軽香房は、燻製デビューの代名詞とも言える存在です。
最大の特徴は、パタンと折りたたんで薄く収納できること。
一見すると華奢なアルミやガルバリウム鋼板のボディですが、必要な機能を極限までシンプルにまとめた、日本の道具らしい機能美があります。
道具というよりは、旅の相棒のような軽やかさを持っています。
コールマン「ステンレススモーカーII」:堅牢な要塞
対するコールマンは、その名の通り分厚いステンレスで作られた、頑丈なボディが特徴です。
折りたたみはできませんが、その分気密性が高く、風の影響を受けにくいという「安定感」においては右に出るものがありません。
庭やキャンプサイトにどっしりと構えるその姿は、まるで小さな「要塞」のような安心感があります。
【徹底比較】使い勝手を決める4つのポイント
それでは、実際に使う場面を想像しながら、具体的な比較をしていきましょう。
カタログスペックだけではわからない、現場での「リアルな感覚」を中心にお伝えします。
1. 持ち運びと収納(SOTOの圧勝)
キャンプ場へ持ち出すことが多いなら、ここはSOTOに軍配が上がります。
SOTOの「いぶし処」は、使わないときは平らな板状に折りたたむことができ、ちょっとした隙間に差し込んで収納できます。
荷物が制限されるキャンプツーリングや、収納スペースが限られているマンション暮らしの方にとって、この「薄くなる」という機能は魔法のようなメリットです。
※ただし、マンションのベランダ等で使用する場合は、管理規約を必ず確認し、火災予防条例に基づく適切な火気管理を行ってください。煙や匂いは近隣トラブルの原因にもなるため、周囲への十分な配慮が必要です。
一方、コールマンのステンレススモーカーは、基本的に「箱」のままです。
中にチップや網を収納できるとはいえ、車のトランクや家の棚でそれなりの存在感を放ちます。
ただ、その存在感が「俺はこれから燻製をやるんだ」というスイッチを入れてくれる側面もあるので、一概にデメリットとは言えません。
(参考リンク)住宅防火関係(総務省消防庁)
2. 温度管理と気密性(コールマンの勝利)
燻製の仕上がり、そして何より「食品としての安全性」を左右する温度管理においては、コールマンの安定性が光ります。
SOTOの折りたたみ式スモーカーは、構造上どうしても隙間が多くなります。
風が強い日や、寒い冬のベランダでは、内部の温度が上がりにくかったり、煙が隙間から逃げてしまったりすることがあります。
これはこれで「空気の通りが良い」とも言えるのですが、食材の中心までしっかり熱を通したいときには、温度計とにらめっこしながらの調整が必要です。
対してコールマンは、肉厚のステンレスとしっかりした扉のおかげで、一度上がった温度が下がりにくい性質を持っています。
まるでオーブンのように熱を抱え込んでくれるので、生焼けのリスクを減らし、食材の中心まで安心して熱を通すことができます。
特に肉類の燻製においては、食中毒を防ぐために「中心温度75℃で1分間以上」の加熱が必要とされています(厚生労働省の指針より)。温度が下がりにくいコールマンの構造は、この安全基準をクリアする上でも非常に有利です。
「キャンピングオーブン」としての機能も兼ね備えていると言われるほど、熱効率の良さは信頼に足るものです。
(出典リンク)食中毒予防:お肉はよく加熱して食べよう(厚生労働省)
3. 使用後のメンテナンス(清掃のしやすさ)
燻製という遊びの、一番のハードルは「片付け」かもしれません。
煙のタール(ヤニ)や食材から落ちた脂は、冷えるとべっとりと固まり、掃除には骨が折れます。
この点でも、コールマンのステンレスボディは優秀です。
表面がつるりとしているため、汚れを洗剤で洗い流しやすく、ガシガシ擦っても傷がつきにくいタフさがあります。
一方のSOTOは、折りたたみ構造ゆえに、蝶番(ヒンジ)の隙間や角に汚れが溜まりやすい傾向があります。
アルミ素材は強くこすりすぎると傷がつくこともあるため、少し優しく扱う必要があります。
ただ、SOTOの場合は「使い込んで黒ずんでいくのも味」と割り切って、ガシガシ使い倒すのが正しい愛し方なのかもしれません。
焦げた跡や落ちない汚れも、あなたが過ごした「火と煙の時間」の記録になります。
4. コストパフォーマンス(初期費用のSOTO)
これから燻製を始める方にとって、価格は無視できない要素です。
実勢価格で見ると、SOTOはコールマンの半額〜3分の1程度で手に入ることが多いでしょう。
「まずはやってみたい」「続くかどうかわからない」という段階なら、SOTOの手軽さは圧倒的に魅力的です。
浮いたお金で、美味しいブロック肉や、ちょっと良いウイスキーオークのチップを買うこともできます。
一方で、コールマンは初期投資こそかかりますが、数年、いや10年以上使い続けられる耐久性を考えれば、長い目で見ると決して高くはありません。
ロゴスや他メーカーという選択肢は?
ここで少し寄り道をして、「ロゴス(LOGOS)」についても触れておきましょう。
検索で比較されることの多いロゴスの「LOGOSの森林 スモークタワー」などは、SOTOとコールマンの中間のような面白い立ち位置にいます。
特に、カセットコンロに直接乗せて使えるタイプや、引き出し式でチップの継ぎ足しが楽な構造など、ユーザーフレンドリーな工夫が凝らされています。
もし、「SOTOだと少し頼りないけど、コールマンほど重厚じゃなくてもいい」と感じるなら、ロゴスも有力な選択肢に入ってくるでしょう。
ただ、「折りたたみの携帯性」か「ステンレスの堅牢性」か、どちらかに振り切りたいのであれば、やはりSOTOかコールマンの二択に戻ってくると私は思います。
【結論】あなたにおすすめなのは、こちらです
長々と比較してきましたが、最終的にどちらを選ぶべきか。
私の独断と偏見も混じっていますが、タイプ別に整理してみました。
SOTO「いぶし処」がおすすめな人
- キャンプやBBQなど、外に持ち出して使うのがメインの人。
- 家の収納スペースが限られていて、コンパクトにしまいたい人。
- 初期費用を抑えて、まずは気軽に燻製を始めてみたい人。
- 道具の傷や凹みも「旅の記録」として愛せる人。
SOTOの魅力は、その軽やかさにあります。
「今日、持っていこうかな」と迷わず思える気軽さが、結果的に燻製をする回数を増やしてくれます。
コールマン「ステンレススモーカー」がおすすめな人
- 主に自宅の庭やベランダ、あるいは車移動のキャンプで使う人。
- ベーコンやハムなど、温度管理がシビアな燻製に挑戦したい人。
- 道具の手入れが好きで、長く綺麗に使いたい人。
- 「一生モノ」の道具を育てることに喜びを感じる人。
コールマンの魅力は、揺るぎない信頼感です。
扉を閉めたときの「カチャン」という金属音だけで、「ああ、今日は美味しくできるな」と予感させてくれる重みがあります。
まとめ:どちらを選んでも、煙の香りは裏切らない
燻製器選びに、絶対の正解はありません。
SOTOの隙間から漏れる煙に一喜一憂するのも楽しいですし、コールマンの温度計がピタリと安定するのを見てニヤリとするのも、また至福の時間です。
大切なのは、「どちらの道具となら、自分がリラックスして火を眺められそうか」という直感です。
もし迷ったら、自分がその燻製器の前に座って、ビールやコーヒーを片手に待っている姿を想像してみてください。
しっくりきた方の景色が、きっとあなたの正解です。
新しい相棒を手に入れて、次の休日は、自分だけの静かな時間を燻してみませんか。
煙が立ちのぼるだけで、いつもの食材が、かけがえのないご馳走に変わる瞬間が待っています。



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