「燻製をやってみたいけれど、専用の道具を揃えるのは少しハードルが高い」
そんなふうに思って、興味はあるのに一歩踏み出せずにいる方は意外と多いのではないでしょうか。
私も最初はそうでした。
重厚な燻製器や本格的な機材を見ていると、「自分に使いこなせるだろうか」「すぐに飽きてしまったらもったいないな」と、不安がよぎってしまうものです。
でも、実は燻製という行為自体は、とてもシンプルな仕組みで成り立っています。
「煙を出す」「食材に当てる」「煙を閉じ込める」
この3つさえ満たせれば、高価な機材がなくても、身近な道具でおいしい燻製は作れるのです。
そのための最も心強い味方が、ダイソーやセリアといった「100均」に並んでいる道具たちです。
この記事では、これから燻製を始めたいと考えている方に向けて、私が実際に使ってみて「これは使える」と感じた100均グッズを厳選してご紹介します。
単なる「代用品」としてではなく、工夫次第で長く付き合える「頼もしい道具」として、それぞれの選び方や使い方のコツをお伝えできればと思います。
まずは気軽に、数百円の投資から、煙のある暮らしを始めてみませんか。
100均グッズでも、燻製は「ちゃんと」始められます
「100均の道具で、本当においしい燻製ができるの?」と聞かれたら、私は「ちゃんとできます」と答えます。
もちろん、数万円する専用の燻製器には、温度管理のしやすさや耐久性、そして一度に作れる量といったメリットがあります。
けれど、「食材に香りをまとわせる」という一点において、道具の値段はそれほど大きな問題ではありません。
「代用」ではなく「工夫」を楽しむ入り口として
100均グッズを使って燻製をする面白さは、自分なりに道具を組み合わせていく「工夫」のプロセスにあります。
ボウルを組み合わせて蓋にしたり、アルミ皿を変形させてチップの受け皿にしたり。
そうやって手を動かしていると、ただマニュアル通りに作るよりも、「煙の仕組み」が肌感覚で理解できるようになります。
「どうすれば煙が漏れないか」「どうすれば食材全体に煙が回るか」を考える時間は、大人の工作のようで、意外と楽しいものです。
安全性だけは妥協しない道具選びを
ただし、安ければ何でもいいというわけではありません。
燻製は「火」と「熱」を扱う調理法です。
耐熱性のない容器を使えば溶けてしまうこともありますし、不安定な道具を使えば火事のリスクも伴います。
安価な道具を使うからこそ、安全性には普段以上に気を配る必要があります。
この記事では、私が実際に試した経験も踏まえ、安全に楽しめるアイテムを中心にセレクトしました。
まずはここから。煙を生むための「必須アイテム」
まずは、これがないと始まらない、燻製の核となるアイテムたちです。
ダイソーやセリアの園芸コーナーやキッチンコーナーには、燻製専用として売られているものや、そのまま転用できるものが数多く眠っています。
ダイソー・セリアの「燻製チップ」
驚くことに、今は100均で燻製チップ(スモークチップ)が手に入ります。
特にダイソーでは、サクラ、ヒッコリー、クルミ、リンゴなど、定番の樹種が小袋サイズで売られていることが多いです。
この「小袋サイズ」というのが、初心者にとっては非常にありがたいポイントです。
ホームセンターで売られている大容量のチップは、使い切るのに時間がかかり、湿気らせてしまうこともあります。
100均のサイズなら、1〜2回で使い切れるため、いろいろな香りを気軽に試すことができます。
まずは王道の「サクラ」と、どんな食材にも合う「ヒッコリー」あたりから手に取ってみるのがおすすめです。
使い捨てできる「アルミ深型鍋・アルミ皿」
燻製をすると、チップを置く受け皿や、食材から落ちる脂を受けるトレーは、どうしてもタール(ヤニ)で真っ黒になります。
洗って何度も使うのも良いですが、こびりついた汚れを落とすのは一苦労です。
そこで活躍するのが、使い捨てのアルミ鍋やアルミ皿です。
うどん焼き用のような深型のアルミ鍋は、簡易的な燻製器の本体としても使えますし、底にチップを敷く受け皿としても優秀です。
汚れたら気兼ねなく処分できる手軽さは、燻製のハードルをぐっと下げてくれます。
意外と重要な「ジャストサイズの金網」
食材を乗せるための「網」は、燻製の出来栄えを左右する重要なパーツです。
ダイソーやセリアには、丸型、角型、足つきなど、様々なサイズの焼き網が売られています。
選ぶ際のポイントは、次に紹介する「ボウル」や手持ちの鍋に、シンデレラフィットするサイズを探すことです。
大きすぎると蓋が閉まりませんし、小さすぎると網が中に落ちてしまいます。
お店に行くときは、組み合わせる予定の鍋やボウルの直径を測っていくか、売り場で実際に重ねて確認してみることをおすすめします。
煙を閉じ込める「ステンレスボウル」の選び方
家庭での簡易燻製でよく使われるのが、ステンレスボウルを2つ合わせた「ボウル燻製」という手法です。
下側のボウルにチップを入れ、網を乗せ、上からもう一つのボウルを蓋として被せる、というシンプルな構造です。
選ぶ際は、同じサイズのものを2つ用意してください。
ただし、100均のステンレスボウルは「直火不可」の商品がほとんどです。
空焚きに近い状態で長時間加熱すると、底が変形したり穴が開いたりするリスクがあります。
そのため、ボウルを直接火にかけるのではなく、フライパンや中華鍋の上にアルミホイルを敷いてチップを置き、その上に網と食材を乗せて、ボウルはあくまで「蓋」として使う方法が安全です。
食材の下準備が変わる「仕込みの便利グッズ」
燻製をおいしく仕上げる最大のコツは、燻す前の「脱水(乾燥)」にあります。
食材の表面に水分が残っていると、煙の酸味だけがついてしまい、エグみのある酸っぱい仕上がりになってしまうからです。
100均には、この「脱水」を助けてくれる優秀なグッズが揃っています。
水気は大敵。「厚手キッチンペーパー」
燻製前の食材の水気は、親の仇のように徹底的に拭き取る必要があります。
薄手のペーパーだとすぐに破れて食材に張り付いてしまうため、100均にある「洗って使えるペーパータオル」や「厚手タイプ」を選ぶのが正解です。
食材を包んで冷蔵庫で寝かせておくだけで、適度に水分が抜け、煙の乗りが格段に良くなります。
味付けを均一にする「密閉保存袋」
いわゆるジップロックタイプの保存袋です。
味付け卵(煮卵)を作るときや、ベーコン用の肉をソミュール液(漬け込み液)に漬けるときに必須となります。
サイズ展開が豊富なので、食材に合わせて無駄なく空気を抜けるサイズを選びましょう。
空気をしっかり抜いて密閉することで、少量の調味液でも全体に味が染み渡ります。
吊るし燻製に必須の「S字フック・たこ糸」
ベーコンや魚など、網に乗せるのではなく「吊るして」燻製したい場合に活躍します。
ステンレス製のS字フックは、食材に刺したり、網に引っ掛けたりと自由自在です。
また、たこ糸はお肉の形を整えたり、吊るすためのループを作ったりするのに欠かせません。
どちらもキッチン用品コーナーやDIYコーナーで見つけることができます。
食材を乾燥させる「干し網(多目的ネット)」
燻製愛好家の間では定番のアイテムですが、実は100均(または200〜300円商品)でも手に入ることがあります。
食材を外気に晒して乾燥させる「風乾」の工程で使います。
虫や鳥から食材を守りながら、効率よく風を当てることができるので、特に涼しい季節のアウトドア燻製には重宝します。
失敗を防ぎ、味を深める「環境・計測グッズ」
ここからは、必須ではないけれど、あると失敗が激減する「転ばぬ先の杖」アイテムです。
感覚だけで行う燻製も野趣があって良いですが、データに基づいた燻製は再現性が高く、何より安心感があります。
温度管理の救世主「料理用温度計」
燻製において、温度管理は非常に重要です。
温度が高すぎると食材がパサパサになり、低すぎると煙が出なかったり、生焼けのリスクがあったりします。
100均によっては、アナログ式の料理用温度計や、簡易的なデジタル温度計が売られていることがあります(多くは200円〜500円商品として展開されています)。
燻製器の中の温度を測ることで、「いま80℃だから少し火を弱めよう」といった判断が可能になり、仕上がりのクオリティが安定します。
また、温度管理は安全のためにも不可欠です。厚生労働省では、食中毒予防の観点から「中心温度75℃で1分間以上の加熱」(またはそれと同等の加熱)を推奨しています。
特に肉類を燻製にする場合は、見た目の色づきだけで判断せず、温度計を使って中心までしっかり火が通っていることを確認しましょう。
(出典リンク)食中毒予防:お肉はよく加熱して食べよう(厚生労働省)
時間を制する「キッチンタイマー」
「なんとなく色づくまで」というアバウトなやり方も楽しいですが、最初は時間を計ることをおすすめします。
「熱燻で10分」「温燻で60分」など、レシピ通りの時間を守ることが、失敗しないための近道です。
スマートフォンのタイマーでも十分ですが、手が汚れていることも多いので、汚れてもいい100均タイマーがひとつあると便利です。
蓋を固定する「金属製クリップ」
ボウルや鍋を蓋として使う際、どうしても隙間から煙が漏れてしまうことがあります。
そんなとき、事務用品コーナーにある「ダブルクリップ(金属製)」や、工具コーナーの「クランプ」で挟んで固定すると、密閉性が高まります。
ただし、プラスチック部品がついているものは熱で溶けるので、必ずオールステンレスや金属製のものを選んでください。
掃除を楽にする「アルミホイル」
燻製をすると、鍋や蓋の内側に茶色いタールがべっとりと付きます。
道具を長持ちさせ、後片付けを楽にするために、燻製器の内側や蓋の裏にあらかじめアルミホイルを巻いておくのがおすすめです。
燻製が終わったらホイルを剥がして捨てるだけ。
これだけで、燻製後の洗い物のストレスが嘘のように軽くなります。
あると便利な「100均燻製の隠れた名品」
最後に、少し応用編ですが、燻製の幅を広げてくれるアイテムをご紹介します。
スキレット(200〜500円商品)
ダイソーなどで数百円で売られている鋳鉄製のフライパン、スキレット。
蓄熱性が高く、蓋(別売りの場合が多いですが)の重みで密閉性も高いため、実は少量の燻製をするのに非常に向いています。
ナッツやチーズなど、ちょっとしたおつまみをテーブルの上で作るのに最適なサイズ感です。
簡易コンロ作成用の「ステンレス蒸し器」
鍋底に置いて使う、花びらのような形をしたステンレス製の折りたたみ蒸し器。
これを燻製器の中に置くと、食材を乗せる「台」になります。
高さを出すことで熱源からの距離を調節できるため、焦げ付き防止に役立ちます。
保冷剤・保冷バッグ(冷燻への挑戦)
スモークサーモンのような「冷燻(20℃以下で燻す)」に挑戦する場合、温度を上げない工夫が必要です。
100均の保冷剤と保冷バッグを使い、燻製器の外側を冷やしたり、煙の通り道を冷却したりすることで、簡易的な冷燻環境を作ることができます。
少しマニアックですが、100均グッズの組み合わせ次第で、そんな高度なことも可能になるのです。
※ただし、温度が低い「冷燻」や「温燻」は、加熱殺菌が不十分になりやすく、細菌が増殖するリスクも高まります。食品安全委員会も注意喚起している通り、特に初心者のうちは「食べる直前にしっかり再加熱する」か、あるいは保存用ではなく「香り付けの調理」と割り切って、すぐに食べ切ることを強くおすすめします。
(出典リンク)肉を低温で安全においしく調理するコツをお教えします!(内閣府 食品安全委員会)
【実践編】100均グッズだけで作る、簡易燻製の手順
道具が揃ったら、実際に燻してみましょう。
ここでは、最も手軽で安全性の高い「フライパン+ボウル蓋」の組み合わせ例をご紹介します。
ボウルと網を使った基本的な組み立て方
- 土台の準備: 深めのフライパン(または中華鍋)を用意し、底にアルミホイルを敷きます。
- チップの投入: アルミホイルの上に、燻製チップを一握り(10g程度)置きます。
- 網の設置: チップの上に直接触れないよう、少し高さを出して網をセットします。アルミホイルを丸めて足にしたり、100均のクッキー型などを台座にしたりすると安定します。
- 食材の配置: 水気をしっかり拭き取った食材(チーズ、かまぼこ、味玉など)を、重ならないように網に並べます。
- 蓋をする: 上から同サイズのステンレスボウル(または鍋蓋)を被せます。
火加減と換気についての重要な注意点
火をつける前に、必ず換気扇を「強」にしてください。
最初は中火にかけ、チップから煙が出始めたら、すぐに弱火〜とろ火に落とします。
100均グッズを使った簡易燻製は、内部の温度が上がりやすい傾向があります。
強火のままだと、食材が焦げるだけでなく、道具が変形したり、空焚き防止センサーが作動して火が消えてしまったりすることがあります。
特に注意が必要なのが、カセットコンロを使用する場合です。
燻製器や大きなフライパンでカセットボンベのカバー部分を覆ってしまうと、熱がこもってボンベが爆発する恐れがあります。
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)も、大型の調理器具によるボンベの過熱事故について強く注意喚起しています。
100均グッズを組み合わせる際も、ボンベの上に鍋やアルミホイルが被さらないよう、配置には細心の注意を払ってください。
「煙を閉じ込めて、香りをつける」イメージで、優しく加熱し続けるのがコツです。
10分程度燻したら火を止め、そのまま5分ほど置いて煙を落ち着かせてから、蓋を開けてみてください。
そこにはきっと、美しい飴色に変わった食材が待っているはずです。
(出典リンク)カセットこんろの事故を防ぐためのポイント(独立行政法人 製品評価技術基盤機構 NITE)
まとめ:道具は安く、時間は贅沢に
燻製に必要なのは、高価な道具よりも、少しの「待つ時間」を楽しむ心の余裕かもしれません。
ダイソーやセリアで手に入る数百円の道具たちも、あなたの工夫と愛情が加われば、立派な燻製ギアに変わります。
- まずは燻製チップとちょうどいいサイズの網を手に入れる。
- アルミホイルやキッチンペーパーで、準備と後片付けを楽にする。
- 温度計やタイマーを使って、失敗のリスクを減らす。
この3つのステップを意識して道具を選べば、100均燻製は驚くほどスムーズに楽しめます。
ベランダからの風を感じながら、あるいはキッチンの換気扇の下で、煙がゆっくりと立ち上るのを眺める時間。
それは、忙しい日常の中にぽっかりと浮かぶ、自分だけの静かな隠れ家のようなひとときです。
今度の休日は、100円ショップに寄ってから、スーパーで好きな食材を買って帰ってみてはいかがでしょうか。
その小さな冒険が、あなたの食卓に新しい香りを運んでくれることを願っています。



コメント