火は、気まぐれ。けれど燻製器の中でそれを手なずける鍵は、たったひとつ——温度計の正確な取り付けと“読む位置”です。目盛りが1ミリずれると香りは別物になる。この記事では、最初の一歩に必要な基礎を、実戦のニュアンスまで落とし込んでお伝えします。
【基礎知識】燻製器の温度計取り付けの前に知っておくべきこと
取り付けの良し悪しは「どこを測るか」「どの温度計を選ぶか」「耐熱・素材の安全基準」「ステム(棒)長=感温部の位置」で決まります。まずはここを腹落ちさせておくと、後の位置決めや穴あけ・固定が迷いなく進み、仕上がりの香りと再現性が劇的に安定します。
燻製器の温度計取り付けで測るべき“場所”と基準温度
狙うべきは食材がいる高さの「空気温」です。フタ(ドーム)に付いた温度計は便利ですが、熱の対流・食材の遮蔽・排気位置の影響でドーム表示とグレート(網)の高さの実温がズレるのが常。だからグレートから約2〜3cm上に空気用プローブをクリップし、肉からは2〜5cmほど離す——これが再現性の土台です。
“どのぐらいズレるの?”への実感値としては、低温帯ではドーム>グレートで10〜30°F(約5〜17℃)高い、あるいは逆転するケースもあります。火床・風・肉量しだいで偏差は出るため、“レシピの○℃”はグレート近傍の空気温だと解釈しておくと安全です。低温長時間の“ロー&スロー”なら225〜275°F(107〜135℃)が実用レンジ。まずはこの帯の中で、あなたの燻製器の“座りがよい”温度(スイートスポット)を見つけましょう。
- プローブは壁や排気口から少し離す(熱風直撃や壁の放射で誤差が出るため)
- 金属グレートに密着させすぎない(熱伝導で実際より高く読んでしまうことがある)
燻製器の温度計取り付け:バイメタルとデジタル、どちらを選ぶ?
バイメタル(ダイヤル式)は、視認性が高く電源不要で、外装にねじ込むだけの堅牢な据え置き指標になります。弱点は応答の遅さと個体差。表示はステムの先端側で局所的に“空気温”を拾うため、ステム長と位置が合っていないと実感とズレます。
デジタル(熱電対・サーミスタ+有線/無線)は応答が高速で、グレートクリップと組み合わせれば食材近傍の空気温を常時監視できます。ログが残り、上下限アラームも便利。注意点はプローブケーブルの耐熱と取り回しで、フタの挟み込みや排気直撃は断線・エラーの原因に。取り付け後はダイヤルで“ざっくり”、デジタルで“正確”という併用が安定解です。
- “ドームは目安、判断はグレートの空気温”——これが温度管理の基本線
- 無線機は平均化表示やアラーム境界を賢く使うと、火加減の微調整がラクになる
燻製器の温度計取り付けを始める前の安全・耐熱・素材チェック
取り付け部の気密や防水に使うシール材は、耐熱RTVシリコン(ガスケットメーカー)の中から耐熱温度と食品機器材料の規格(例:FDA 21 CFR 177.2600やNSF 51)への適合が明記されたものを選ぶと安心です。とはいえ“食品に直接触れない部位で薄く使う”のが原則。硬化完了(24時間以上の養生目安)前は加熱しないでください。ねじ・ワッシャーは錆に強いステンレス(SUS304/316)が無難で、内側に亜鉛めっき品を使う必要はありません。
また、プローブケーブルの常用上限はおおむね300℃/572°F前後。火床の直上や排気口に向けた配置は寿命を縮め、エラー表示の原因になります。耐熱グロメット(シリコン製)や配線の取り回しまで含めて“温度管理の装置”だと考え、焼け・挟み込み・曲げ癖を避ける設計にしましょう。
燻製器の温度計取り付けに必要なステム長と読み取りの考え方
ダイヤル温度計の感温部はステムの先端側 数センチに集中しています。多くの工業用バイメタルでは「下端から約2インチ(約5cm)」が感温コイルの実装エリアで、ここが食材のいる空間に“しっかり浸かる”ようにステム長を選ぶのがコツ。例えば直径50〜60cm級のケトルなら、外装から内側へ十分に届く4インチ(約10cm)ステムが扱いやすいことが多いです。
取り付け位置はグレート高さ±2〜3cmを基準に、火源からやや離した位置に。ステム先端が肉に触れると温度が落ち着かなくなるため、“先端が空気中に漂い、肉から2〜5cm離れ、壁からも距離がある”状態を狙います。ここまで整えておけば、ダイヤルが“おおまかな方向性”を示し、デジタルが“いま、ここ”を正確に教える——そんな二段構えが出来上がります。
【位置決め&穴径】燻製器の温度計取り付け:高さ・左右位置・穴サイズの決め方
「どこに付けるか」「どれだけの穴を開けるか」で、読み取る温度の意味はガラリと変わります。ここでは燻製器の内部気流と放射を踏まえ、温度計の取り付け位置をタイプ別に定義。さらに、ねじ規格と穴径(mm/インチ)、グロメット選びまでを“迷いゼロ”で決め打ちにします。
燻製器の温度計取り付け:グレート高さを基準にする理由
あなたが管理したい温度は、レシピに書かれた“空気温”。その“空気”は食材がいる高さで味に直結します。だから基準はグレート(網)高さ±2〜3cm。火床からの対流は上昇し、フタ裏では渦を作りやすく、壁面は放射でほんのり高温になりやすい。ステムの先端が「空気中」に浮き、肉や壁から2〜5cm離れていることが最重要です。
フタ(ドーム)に付属する温度計は便利ですが、熱の層流・排気位置・食材量の影響で実温とズレるのが常。特に低温帯(90〜135℃)では、ドーム表示が高めに出る/低めに出るの両パターンが起こり得ます。だからこそ、“いつでもグレート目線”に合わせた取り付けを行い、ダイヤルは方向指示、デジタルで最終確認、という二段運用にしておくと再現性が跳ね上がります。
- 目安:グレートから約2.5cm上、肉から2〜5cm離す
- 壁から最低2cm離す(壁の放射で高く読まれやすい)
- 排気口の直線上は避ける(熱風直撃・湿度差で値が踊る)
燻製器の温度計取り付け:ケトル・縦型・オフセット別の最適位置
ケトル(丸型):火床側の対流が斜め上に立ち上がり、蓋の排気へ引かれる構造です。炭側とは反対寄りに、グレート高さ±2〜3cmでダイヤルを設置。デジタルはグレートクリップで食材の“外気”を測る位置に。火源直上と排気直線上は避けると、読みが安定します。直径57〜60cm級ならステム長4インチ(約10cm)が扱いやすく、先端が食材ラインまで届きます。
縦型(WSM/キャビネット):段付きのグレート間に縦の温度勾配が出やすいタイプ。中段のドア近傍の側壁に、グレート高さ基準でダイヤルを1基。デジタルは下段グレートにクリップ、もう1本を上段グレートへ——二点同時に見ると「水皿の効果」「薪/炭の勢い」の変動が把握しやすくなります。プローブは専用グロメット通しが安全です。
オフセット(スティックバーナー):火室側が高温、煙突側が低温になりがち。左右端にダイヤルを2基、それぞれグレートから約1インチ(2.5cm)上に設置するのが定番です。デジタルは中央付近に1本。3点で温度勾配(デルタ)を可視化し、火室ダンパーやバッフルの角度を微調整。脂の滴りが激しい区画にはプローブ先端を向けないようにし、油煙による誤差と汚れを防ぎます。
燻製器の温度計取り付け:穴径・ネジ規格・グロメットの早見表
穴径は機種のねじ規格と固定方式で決まります。ダイヤルは工業規格の採用が多く、デジタルはケーブル通し用のグロメット寸法が肝。迷ったら、以下の表を基準にしてください。
用途 | 代表規格 | 下穴の目安 | メモ |
ダイヤル温度計(バイメタル) | 1/2″ NPT(テーパねじ) | 7/8″ ≒ 22.2mm | ロックナット/カップリングで固定。ステム長は4″前後が汎用 |
小径ダイヤル(純正互換) | 3/8″ 直径系 | 3/8″ ≒ 9.5mm | 製品指定の座グリ/ブッシング要確認 |
デジタル用グロメット(標準) | 丸穴 1.00″ | 1.00″ ≒ 25.4mm | シリコン製。プローブ2〜3本通し可 |
デジタル用グロメット(WSM互換) | 丸穴 1.25″ | 1.25″ ≒ 31.8mm | 純正位置の増設/交換で定番 |
注意点:NPTはテーパねじのため、座りの“きつさ”は巻き数で微調整します。薄板筐体ではロックナット+ワッシャーを併用し、内外に薄く耐熱RTVシリコンで面シール。グロメットは耐熱(少なくとも260℃級)を選び、穴のバリを必ず面取りしておくとケーブル寿命が伸びます。
燻製器の温度計取り付け:二基設置で温度勾配を読むコツ
“1点だけ”だと、燻製器の気分が読めません。二基設置の利点は、左右/上下の温度勾配(ΔT)をリアルタイムで掴めること。例えばオフセットなら、火室側ダイヤルの指示が+15℃、煙突側が−10℃と出た時点で、中央のデジタル値を“本命”として、火室の薪量と吸気/排気を微調整します。
実践の型:
- 左右二基+中央デジタル(オフセット):左右差が10℃を超えたらバッフル/吸気で是正。脂煙が強い日は排気を気持ち開ける
- 上下二点(縦型):下段グレートにデジタル、上段近傍にダイヤル。上下差を15℃以内に維持するよう水皿・燃料位置を調整
- ケトルの左右差:スネーク法/ブリケット配置で片寄りが出るため、ダイヤルは炭反対側、デジタルは食材横へ
この二基運用は“監視ではなく、整えるための目”です。数字に振り回されず、ΔTを見て火加減と給気排気の応答を学ぶと、同じ材・同じ天候で同じ香りを再現できるようになります。それが温度計取り付けの最大の報酬です。
【手順完全ガイド】燻製器の温度計取り付け:工具選定から穴あけ・固定・気密まで
ここでは、はじめてでも迷わないように燻製器への温度計取り付けを“道具→穴あけ→固定→気密”の順に一本の手順へ落とし込みます。要所に代替案やリカバリー策も添えたので、機種や材質が違っても応用が利きます。
燻製器の温度計取り付け:必須工具と代替ツール(ステップドリル等)
まずは道具の選定です。基本セットは、マスキングテープ(養生と滑り防止)、センターポンチ(芯出し)、下穴用ドリル(1/8″≒3.2mm)、ステップドリル(円を広げながら加工)、カーバイドバー/リーマー(微調整)、面取りツール(デバリング)、ステンレスワッシャ/ロックナット、耐熱RTVシリコン、防錆スプレーまたは耐熱塗料、そして安全保護具(保護メガネ・手袋)です。曲面やホーロー(ポーセリン)では、“低回転で段階的に拡孔するステップドリルが欠けを抑えやすい”という実践知が広く共有されています。一方で、曲率のきつい曲面はカーバイドバーで少しずつ拡げる方が安全という意見も根強く、現場でのコントロール性は高いです。いずれにせよ、テープ養生+段階拡孔の“ゆっくり進める”が基本線です。
- ドリルは回転数を下げて、押し付けすぎない(熱でホーローが傷みやすい)
- 金属粉は冷える前に払うと表面を引っかかない
- 仕上げは面取り+防錆塗装までがワンセット(グロメットやケーブルの寿命が延びる)
燻製器の温度計取り付け:ホーロー面に欠けを出さない穴あけ手順
ホーローやコーティングを美しく保ちながら穴を開けるコツを、手順化します。これは“欠けやクラックを起こさないための減速設計”です。
- 位置決め:外装にマスキングテープを十字に貼り、中央にポンチで軽く“点”を付けます。内側もテープ養生をして、貫通時の欠けを抑えます。
- 下穴:1/8″(約3.2mm)で低回転、押し付けず“待つ”ドリルワーク。刃先が乗ったら一度止め、バリを払ってから再開。
- 拡孔:ステップドリルで一段ずつサイズを上げます。熱がこもる前に休めるのがステップドリルの利点。曲面が強い機種は、下穴のあとをカーバイドバーで“円をなぞる”ように拡げると欠けが最小化します。
- 最終サイズ:ダイヤル(1/2″ NPT)の場合は7/8″(22.2mm)まで、グロメットは1.00″/1.25″の指定まで拡孔。
- 面取り&防錆:内外のバリを面取りツールで落とし、薄く防錆塗料。ホーロー欠けの“芽”を摘んでおくのが長持ちの秘訣。
補足(選択肢):ホーローが極端に割れやすい個体や古い筐体では、ダイヤモンド系のコアビットを用いる方法もありますが、熱管理と姿勢制御の熟練を要します。まずはステップドリル/カーバイドバーの組み合わせを基準に考えてください。
燻製器の温度計取り付け:ロックナット固定とワッシャー選び
穴が整ったら固定です。バイメタルの定番である1/2" NPT(テーパねじ)は、多くのBBQ用ダイヤルで採用され、推奨の下穴は7/8"が一般的。ここにロックナット+平/バネワッシャを併用すると、薄板でも確実に座ります。Tel-Tru BQ300などは“1/2" NPTを7/8"穴に”と製品説明に明記されており、取り付けキットを併用すれば曲面でも安定します。
- 順番(外→内):ダイヤル本体→外側平ワッシャ→筐体→内側平ワッシャ→ロックナット。曲面は内側に“当て板”を入れると面圧が分散し、ガタが出にくい。
- 締め付け:NPTはテーパゆえ、締めすぎで塗膜を傷めやすい。“固着寸前で止める”が正解。最終の防煙は後述のRTVの“面シール”に任せる。
- PTFEテープは高温域での劣化が早い場合があるため、屋外BBQ用途では機械的固定+面シールを基本に。
もし既存穴が小さく(例:1/4" NPT相当)入れ替えたい場合は、ブッシングやカップリングを併用する施工例もあります。曲面・薄板では“取り外しやすさ”を優先してカップリングを使うという上級者の選択も。
燻製器の温度計取り付け:RTVシリコンで行う気密・防水の仕上げ
仕上げの気密は薄く・均一に・弾性で。選ぶのは耐熱RTVシリコンで、BBQ温度域に強く、食品機器材料の規格(例:FDA 21 CFR 177.2600、NSF 51)への適合がメーカー資料で確認できる代表例としてDOWSIL™ 736があります(連続260℃/短時間315℃)。高温域重視ならPermatex Ultra Redなど650°F(約343℃)クラスのRTVも選択肢です。
- 塗り方:内外それぞれ“米粒〜線”程度を置き、指先(手袋)またはヘラで薄いフィルム状に延ばす。厚塗りは熱サイクルで剥がれやすい。
- 養生:皮張り(スキンタイム)を待ってから組むとにじみが出にくい。加熱は完全硬化後(目安24時間以上)に。
- 漏れチェック:初回加熱前に懐中電灯を内部から当て、継ぎ目の“光漏れ”を確認。初回の火入れ後に増し締め→うす塗り追いシールで完成。
グロメット派は、1.00"/1.25"穴対応のシリコン製グロメットを選べば、プローブケーブルの出し入れが容易で断線リスクも減ります。Weber Smokey Mountain互換は1.25"穴が定番規格です。
【キャリブレーション&運用】燻製器の温度計取り付け後にやるべきこと
取り付けはゴールではなく、ここからが“味の再現性”の本番です。まずは温度計の基準点を整え、次に燻製器のクセをログに刻み、日々の運用で微差を積み上げる。以下の手順を通すことで、取り付けの効果は最大化し、数字が“香りの設計図”として機能し始めます。
燻製器の温度計取り付け:氷水・沸騰水でゼロ点とスパンを合わせる
最初に行うのはキャリブレーション。ダイヤルでもデジタルでも、読みに“基準点”を与えるだけで信頼度が跳ね上がります。方法はシンプルで、氷水=0℃のチェックと、沸騰水(標高補正)での上側チェックの二段構え。氷水は、砕いた氷と少量の水を混ぜてよくかき混ぜ、表面の氷が残ったスラリーに先端だけを浸し、30〜60秒静置で0℃に張り付くか確認します。
次に沸騰水。海抜0m付近は100℃ですが、標高が上がるほど沸点は下がります。実用目安としては標高300mごとに約−1℃、つまり標高900mなら約97℃あたりを目標に読み合わせればOK。ダイヤル式は裏面の調整ナットで指針を合わせ、デジタルは機種のオフセット機能(±補正)で記録値を揃えます。
ポイントは、“感温部だけ”を媒体に入れること。ステムの根元まで深く浸すと本来の感温位置から外れ、誤差が出ます。また、校正後は基準日・方法・補正値をメモしておきましょう。季節の変わり目や落下・衝撃後、表示が“鈍い”と感じたら、この二点チェックを繰り返します。
最後に、実運用へ入る前の“実地検証”として、グレートの空気温を読むデジタルとダイヤルの表示を同時に見比べ、あなたの燻製器固有のズレ(例:ダイヤル+7℃高め)を把握しておくと、その日から判断が速くなります。
燻製器の温度計取り付け:ログの取り方と再現性を高める運用
温度計は“記録してこそ本領”。紙でもアプリでも良いので、同じ形式で毎回ログを残します。最低限の項目は、日付・外気温/風・燃料(種類/量)・木材(樹種/塊数)・吸気/排気の開度・目標温度・実測(グレート/ダイヤル)・仕込み重量・投入時刻・終了時刻・味の所感。特に吸気/排気の開度は“目盛り化”しておくと、再現性が一気に上がります(例:吸気20%、排気全開など)。
火入れ手順は、プレヒート→安定→投入→追い調整が鉄則。プレヒートでは目標+5〜10℃まで一度持ち上げ、排気は基本全開、吸気で制御します。温度が上がりきったところで吸気をやや絞り、“下りながら目標に着地”させるとオーバーシュートが出にくい。投入後は温度が一時的に落ちますが、5〜10分の“回復待ち”をログに書いておくと、次回の見通しが立ちます。
味の安定に効くのは、安定三原則=小さな火・一定の空気・一定の燃料。急な薪追加や吸気の全開/全閉は“温度の波”を作り、乾きやすさや燻香の付き方が変わってしまいます。風が強い日はウインドブレーカー(風防)を立てる、真冬は断熱カバーを掛けるなど、環境側の変動源を減らすのも上策です。
最後に、ログは“結論のひと言”で締めるのがコツ(例:「ブナ2塊は香りが軽い。次回は3塊、吸気+5%」)。この一行が翌週の火加減を導き、“いつもの香り”を手早く呼び戻してくれます。
燻製器の温度計取り付け:デジタル併用とプローブ用グロメット活用
実運用では、ダイヤル=方向指示、デジタル=現在地の役割分担が効きます。ダイヤルは離れても一目で“上がっている/下がっている”が掴め、デジタルはグレートの空気温を±0.1〜0.5℃単位で追えます。両者を同じ“読み”に寄せるため、デジタルのプローブはグレートから2〜3cm上、肉から2〜5cm離す配置を徹底しましょう。
配線はシリコン製グロメットを通すのが安全で、フタの縁で挟み込まないこと。挟み癖は内部導線の断断続を招き、使用中のノイズや突然の「— —」表示に直結します。ケーブルはゆるい半径でまとめ、油汚れは軽く拭き取る程度に。高温の排気に直接晒さないだけで寿命は大きく伸びます。
多点監視ができる機種なら、1本はグレート空気、1本は食材中心温に。中心温の上がり方とグレート空気の揺れ幅を重ねて見ると、薪追加のタイミングやダンパー調整の効きが可視化され、誰が焼いても似た仕上がりに寄っていきます。アラームは上限+5℃/下限−5℃の“ゆるめ幅”で運用すると、過剰な通知に振り回されません。
屋外の直射日光はダイヤルの表示を持ち上げることがあるため、日陰を作る小さなバイザー(耐熱アルミ板など)も有効です。数字は“読む場所と環境”の影響を受けます。だからこそ、取り付けた位置基準を崩さず、いつも同じ手順で火を起こすことが、再現性の最短ルートになります。
燻製器の温度計取り付け:メンテナンス、錆・緩み・誤差の対処
ダイヤルの世話は月イチ点検が目安。ネジ部の緩み確認→軽く増し締め、ステムと文字盤は硬く絞った布で拭き、浸水や丸洗いは避けます。表面のピット錆は、極細スコッチブライトでやさしく落とし、耐熱オイルをごく薄く伸ばすと進行を抑えられます。指針が引っかかる、戻りが遅いといった症状は強い衝撃や過熱が原因のことが多く、再校正で直らなければ交換を検討します。
デジタルはケーブルの折れ/焼けが主因。被覆の色変化や硬化、コネクタの緩みが出たら早めに交換します。清掃は油分を乾拭き→微量のアルコールで仕上げ。食洗機や水浸しは厳禁です。読みが不安定(秒ごとに大きく揺れる)場合は、プローブの先端が熱風直撃や金属への接触になっていないか配置を見直し、それでも解消しなければプローブ側の寿命を疑います。
気密まわりは、初回の火入れ後と数回使用後にチェック。ロックナットの沈み込みでRTVが“やせて”微小な煙漏れが出ることがあります。光漏れチェック(内側から懐中電灯)は簡単で有効。微少漏れはうす塗り追いシールで整え、流路が必要な排気側にはシールを塗りすぎないように注意します。
最後に、季節の再キャリブレーションを習慣化しましょう。年に数回、氷水0℃と沸騰水(標高補正)をなぞるだけで、“数字に寄り添う香り”が取り戻せます。道具を信じるために、道具に基準を与える——これが温度計運用の要です。
まとめ:燻製器の温度計取り付けで“狙った香り”を掴む
ここまでの旅路で、私たちは燻製器の呼吸を聴き、その声を温度計という言語に翻訳し、正しい取り付けで再現性を手に入れる方法を学びました。核はいつも同じ——「食材がいる高さの空気温を読む」という原則です。ドームの数字に安心したくなる日もありますが、香りの設計図はグレート近傍にしかありません。位置決め、穴径、工具、固定、気密、キャリブレーション、ログ運用。それぞれは小さな作業でも、連なれば味の個性を“再現できる個性”へと磨いてくれます。
まず位置。迷ったらグレート高さ±2〜3cm、肉から2〜5cm離す。排気直線上や壁ベタ付けは避ける。次に規格。ダイヤルは1/2" NPT→下穴7/8"(22.2mm)が基準、デジタルは1.00"/1.25"グロメットを使えば配線は安全で長持ちします。穴あけは“ゆっくり”。テープ養生→下穴→ステップドリルで段階拡孔、曲面はカーバイドバーで微調整。固定はロックナット+ステンレスの当て板、仕上げは耐熱RTVを薄く面シール。ここまでの積み重ねが、火の“気まぐれ”を静かに整えます。
そして運用。氷水0℃と沸点チェックで基準をつくり、ダイヤルは“方向”、デジタルは“現在地”として併用。ログには外気・燃料・吸排気開度・目標と実測・所感を刻む。大切なのは、数字に従うのではなく、数字を通して火と対話することです。温度の微差は香りの微差。今日の+5℃は、明日の乾きすぎを招くかもしれない。だからこそ“同じ手順で同じ場所を測る”という規律が、あなたの一皿に静かな一貫性をもたらします。
最後に、よくある不安を小さな方法で解きほぐしておきます。ドームとグレートの差に迷ったら、中央のグレート空気温を主軸に。オフセットの温度勾配には左右二基のダイヤル+中央デジタル。ホーローの欠けが怖い日は、低回転+段階拡孔+面取りの“減速設計”。煙漏れが気になるなら、初回火入れ後の増し締めと薄い追いシール。どれも特別な技巧ではなく、ただ丁寧に“順番を守る”だけです。順番が守られたとき、香りは裏切りません。
— 持ち歩ける最終チェックリスト —
- 位置決め:グレート高さ±2〜3cm/肉から2〜5cm離す/排気直線・壁際を避ける
- 穴径・規格:ダイヤル=1/2" NPT→7/8"下穴/デジタル=1.00" or 1.25"グロメット
- 加工手順:テープ養生→1/8"下穴→段階拡孔→面取り→防錆
- 固定・気密:ロックナット+当て板/耐熱RTVを薄く面シール(完全硬化後に加熱)
- キャリブレーション:氷水0℃→沸点(標高補正)→ダイヤル微調整orデジタルオフセット
- 運用設計:ダイヤル=方向、デジタル=現在地/ログに吸排気開度を記録/プレヒートは目標+5〜10℃から着地
- 保守:月イチで緩み・錆・プローブ劣化を点検/光漏れチェック→必要なら追いシール
道具と数字は、香りの“踏切”のようなもの。渡るべきタイミングを教えてはくれるけれど、渡るのはあなた自身です。今日、最初の穴をひとつ開け、ステムの先端を空気にそっと預けてください。その1ミリの差が、週末の食卓に小さな歓声を連れてきます。あなたの燻製器は、もう十分に準備ができています。
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