羊肉好きにはたまらない。ラムチョップの燻製とローズマリーの香り付け

食材・レシピ

スーパーの精肉売り場で、綺麗な骨付きのラム肉(ラムチョップ)を見かけると、無意識に足が止まってしまいます。

ここ長野県・安曇野に移住してから、地元のスーパーでも良質なラム肉が手に入ることに気づき、私の「燻す日々」における楽しみがひとつ増えました。

牛肉や豚肉にはない、あの少し野生味を含んだ香り。

好き嫌いがはっきりと分かれる食材ですが、羊肉を愛する人にとって、あの香りは食欲をそそる何よりのスパイスではないでしょうか。

今夜は、築40年のこの古い家で、少し特別な食材「ラム肉」を燻製にしていきます。

「羊肉の臭みが苦手」という声をよく耳にしますが、燻製という調理法において、その強い個性はむしろ武器になります。

ローズマリーの清涼感ある香りと、チップの煙、そしてラム肉特有の野性味が混ざり合ったとき、そこには驚くほど深い調和が生まれるからです。

重めの赤ワインを用意して、ゆっくりと仕込んでいきましょう。

 

なぜ、ラム肉(羊肉)を燻製にするのか?

燻製といえば、ベーコンやチーズが定番ですが、実は羊肉(ラム・マトン)こそ、煙と最も相性の良い食材のひとつだと私は思っています。

その理由は、羊肉が持つ「脂の融点」と「香りの強さ」にあります。

また、羊肉は体脂肪の燃焼を助けると注目されている「L-カルニチン」や、良質なタンパク質を多く含んでいます。美味しいだけでなく、身体を作る食材としても優秀なのが羊肉の魅力です。

(参考リンク) 文部科学省:食品成分データベース(日本食品標準成分表)

 

独特の香りと煙の相乗効果

羊肉には特有のクセがあります。

これを「臭み」と捉えて、強いスパイスやタレで消そうとすることも多いですが、私のスタンスは少し違います。

煙の香りを上書きするのではなく、羊肉の香りに「重ねる」ことで、奥深い風味へと昇華させるのです。

特に桜(サクラ)やヒッコリーといった樹種のチップで燻すと、煙の甘みが羊の脂の甘みを引き立て、野性味を上品なコクへと変えてくれます。

 

赤ワインが止まらなくなる理由

燻製されたラム肉を口に入れると、まず鼻に抜けるスモーキーな香りがあり、噛み締めるとジューシーな脂が広がります。

かつて東京でコピーライターとして激務に追われていた頃、食事はただの「燃料補給」になりがちでした。

けれど今は、この脂が口の中で溶け合い、そこに赤ワインのタンニンの渋みが重なる瞬間を、時間を気にせず味わうことができます。

自宅にいながらビストロのメインディッシュを味わっているような、そんな豊かな気持ちを取り戻せるのも、燻製の魅力のひとつです。

 

準備するもの:骨付き肉とハーブの役割

今回は少し見た目も豪華に、骨付きのラムチョップを使いますが、基本的な考え方は他の部位でも同じです。

 

骨付きラム肉(ラムチョップ)の選び方

スーパーや精肉店でラムチョップを選ぶときは、ドリップ(赤い汁)が出ておらず、脂身が白くて綺麗なものを選んでください。

赤身の部分が鮮やかなローズ色をしているものが新鮮な証拠です。

骨付き肉は火を通すのが難しそうに見えますが、骨周りの肉は縮みにくく、旨味が凝縮されているため、燻製にすると非常にジューシーに仕上がります。

燻製は保存食の側面もありますが、家庭での調理では衛生管理が第一です。菌を「つけない・増やさない・やっつける」の三原則を基本に、手洗いや器具の消毒を徹底して楽しみましょう。

(出典リンク) 政府広報オンライン:食中毒予防の原則と6つのポイント

 

臭み消しではない?ローズマリーの役割

今回の名脇役が「ローズマリー」です。

一般的には羊肉の臭み消しとして使われますが、燻製においては「煙の香りを手助けするパートナー」として扱います。

ローズマリーの針葉樹のような鋭い香りは、燻製の煙と非常に成分が似ている部分があり、これを使うことで食材と煙の馴染みが格段に良くなります。

もし手に入れば生の枝を使いたいところですが、乾燥のローズマリーでも十分に役割を果たしてくれます。

 

 燻製ラム肉の作り方【下処理〜燻煙】

それでは、実際に作っていきましょう。

焦らず、時間をかけることが一番の調味料です。

 

1. 下味とハーブのマリネ

まず、ラム肉の表面の水分をキッチンペーパーで丁寧に拭き取ります。

次に、塩、黒胡椒、そして刻んだローズマリーを肉全体にしっかりとすり込みます。

塩の量は肉の重量の2〜3%ほど、少し強めに振るのがポイントです。

これを保存袋に入れ、できれば一晩、時間がなければ2〜3時間ほど冷蔵庫で寝かせます。

この工程で、ハーブの香りを肉の繊維の奥まで染み込ませていきます。

 

2. 風乾(乾燥)で旨味を閉じ込める

燻製で最も大切な工程が、この「乾燥」です。

冷蔵庫から取り出した肉を、流水でさっと洗い流し(塩抜き)、再びキッチンペーパーで水気を完璧に拭き取ります。

その後、風通しの良い日陰か、冷蔵庫の中で網に乗せ(ラップはせず)、表面がサラッとするまで30分〜1時間ほど乾かします。

表面が濡れたまま煙をかけると、煙の酸味がついて酸っぱくなったり、色付きが悪くなったりする原因になります。

肉の表面を手で触れてみて、指に水分がつかなくなるまで待つのが成功の秘訣です。

 

3. 熱燻で火を通し、仕上げる

今回は、温度管理が比較的簡単な「熱燻(ねつくん)」をおすすめします。

80℃〜100℃くらいの温度で、食材に火を通しながら香りをつけます。

燻製器の底にチップを一握り入れ、中火で煙が出てくるのを待ちます。

煙が出てきたら網にラム肉を並べ、蓋をして弱火〜中火で20分〜30分ほど燻します。

ライターをカチ、と鳴らしてチップに火を移し、煙が立ち上るのを眺める数分間。

この時間が、私にとっては何よりの「自分を取り戻す小さな儀式」でもあります。

 

火の通り具合の確認

ラム肉は、完全に火を通しすぎると硬くなってしまいます。

しかし、生焼けも食中毒のリスクがあるため避けなければなりません。

もっとも安心で美味しいのは、燻製で8割がた火を通したあと、最後に熱したフライパンで表面をさっと焼き付ける方法です。

これにより、皮目の脂がパリッと香ばしくなり、メイラード反応による旨味も加わります。

あるいは、芯温計をお持ちであれば、中心温度が63℃以上になっていることを確認できれば安心です。

※中心温度63℃で30分間以上加熱する方法(またはそれと同等の加熱殺菌効力を持つ方法)は、厚生労働省が定める食肉の加熱殺菌基準に基づいています。食中毒を防ぐためにも、温度管理は慎重に行いましょう。

(出典リンク) 厚生労働省:お肉はよく焼いて食べよう

 

ジンギスカン用肉でも楽しむ燻製

「骨付き肉はちょっとハードルが高い」という場合は、薄切りのジンギスカン用のお肉でも燻製は楽しめます。

 

手軽な「羊ジャーキー」風に

ジンギスカン用の肉を使う場合は、漬け込み時間を短くし、逆に乾燥時間を長く取ります。

水分をしっかり抜いてから燻製することで、お酒のアテに最高な「羊肉のジャーキー」のような仕上がりになります。

ジンギスカンのタレに漬け込んだ肉を、水気を拭いてから燻すのも面白いアレンジです。

日常の晩酌用なら、こちらのほうが手軽で出番が多いかもしれません。

 

 失敗しないためのポイント

最後に、美味しく安全に楽しむための小さなコツをお伝えしておきます。

 

「臭み」と「香り」の境界線

ラム肉の香りは、鮮度が落ちると不快な「臭み」に変わります。

もし購入した肉のドリップが多かったり、香りに違和感がある場合は、燻製にする前に牛乳に30分ほど漬け込んだり、下茹でをしてから燻製にする方法もあります。

ただ、新鮮なラム肉であれば、過剰な下処理は不要です。

本来の個性を活かす勇気を持って、シンプルに仕上げてみてください。

  

まとめ:煙と羊と、静かな夜

お皿に盛り付けたラムチョップから、ローズマリーとスモークの香りが静かに立ち上ります。

ナイフを入れると、まだほんのり温かい肉の弾力が手に伝わってくるはずです。

ラム肉の燻製は、豚や鶏にはない、どこか遠い場所を思わせる味がします。

それはきっと、古くから人と共にあった「羊」という食材と、「火と煙」という根源的な調理法が出会うからなのかもしれません。

週末の夜、もしスーパーで良さそうなラム肉と目が合ったら、ぜひカゴに入れてみてください。

少しの手間と時間をかけるだけで、いつもの食卓が、静かで豊かなバルに変わります。

火と煙と言葉で、あなたの心にも「静かな火」が灯りますように。

 

この記事のポイント

  • ラム肉と燻製の相性:羊肉特有の香りは煙と混ざることで、臭みではなく奥深い風味に変わる。
  • ローズマリーの役割:臭み消しとしてだけでなく、煙の香りと肉を繋ぐ「接着剤」として機能する。
  • 準備のコツ:新鮮な骨付き肉(ラムチョップ)を選び、水分をしっかり拭き取って風乾させることが最重要。
  • 調理のポイント:80〜100℃の熱燻で火を通し、仕上げにフライパンで表面を焼くと香ばしさが増す。
  • アレンジ:ジンギスカン用の肉を使えば、手軽なおつまみ(ジャーキー風)としても楽しめる。

 

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