庭に秘密基地を。レンガとブロックで積む「常設型ガーデン燻製かまど」の夢

道具

子どもの頃、秘密基地を作ったときの高揚感を覚えているでしょうか。

誰にも邪魔されない、自分だけの場所。

大人になった今、私たちが庭に作れる最高の秘密基地、それが「レンガ積みの常設型燻製かまど」です。

正直に言えば、ホームセンターで売っている組み立て式の燻製器の方が、手軽だし移動も楽でしょう。

それでもなお、重たいレンガやブロックを一つひとつ積み上げ、庭の一角に「動かない竈(かまど)」を据えることには、機能を超えたロマンがあります。

それは単なる調理器具ではなく、庭の風景の一部となり、これからの週末を支える相棒になるからです。

ここ信州・安曇野の古い家で、私が実際に手を動かし、試行錯誤した経験と、少しの失敗談を交えながら、初心者でも挑戦できる「レンガ製燻製器」の設計図を広げてみたいと思います。

「いつか庭で、本格的なベーコンを吊るしたい」

そんな静かな野心を抱いているあなたへ、その第一歩となる知識をお渡しします。

 

なぜ、あえて「レンガ」で積むのか

ダンボールや一斗缶、あるいは市販のステンレス製スモーカー。

燻製器にはたくさんの選択肢がありますが、レンガ造りの常設タイプには、他の何にも代えがたい「機能美」と「情緒」があります。

 

安定した「熱」を蓄える力

機能面で最大のメリットは、その圧倒的な「蓄熱性」と「保温性」です。

レンガやコンクリートブロックは、一度温まると冷めにくい性質を持っています。

冬場の冷たい風が吹く庭先でも、レンガの壁に守られた庫内は温度が下がりにくく、安定した温燻・熱燻が可能になります。

特に、大きな豚バラ肉を何時間も燻すような「大型」の燻製に挑む際、この温度の安定感は失敗を遠ざける大きな武器になります。

ステンレス製の薄いボディでは外気温に左右されやすい微妙な温度管理も、分厚いレンガの壁なら、薪ストーブのように穏やかに熱を保ってくれます。

 

庭の風景になる「常設」の美学

もうひとつは、道具を出したりしまったりする手間がないことです。

「燻製をしよう」と思ったとき、そこには既に燻製器が鎮座しています。

網とチップと食材さえ持っていけば、すぐに火を熾せる。

この心理的なハードルの低さは、燻製を「特別なイベント」ではなく「日常の儀式」にするために、意外と重要な要素です。

雨風にさらされ、少し苔むしたレンガの表情もまた、庭の景色として味わい深いものになっていくでしょう。

 

設計図を描く前の「作戦会議」

いきなりホームセンターへ走る前に、まずは紙とペンを用意して、作戦を練る必要があります。

一度積んでしまえば、簡単には動かせない「建造物」だからです。

 

設置場所と「煙」のゆくえ

最も慎重になるべきなのは、設置場所です。

私たちにとっての「良い香り」は、近隣の方にとってはただの「煙」や「異臭」になり得ます。

実際、総務省の調査によれば、全国の公害苦情のうち「悪臭」や「大気汚染(野外焼却など)」に関する相談は毎年上位を占めており、家庭からの煙もその対象となり得ます。

風の通り道を読み、隣家との距離を十分に取れる場所を選んでください。

私の経験則ですが、自分の敷地内であっても、境界線ギリギリに設置するのは避けた方が無難です。

庭の隅、できれば風が抜けていく方向や、高い塀の近くなどが候補になりますが、火を扱う以上、燃えやすい植栽のすぐ側は避ける必要があります。

トラブルを避けて安全に楽しむこと。

これが、長く燻製ライフを続けるための絶対条件です。

また、お住まいの地域によっては、庭での火気使用や煙が出る行為に対し、消防署への「火災とまぎらわしい煙又は火炎を発するおそれのある行為の届出」が必要な場合や、火災予防条例による制限がある場合があります。着工前に必ず自治体のルールを確認しておきましょう。

(出典リンク) 総務省|公害等調整委員会|公害苦情調査結果
(参考リンク) 総務省消防庁|たき火・野焼き等の火災に注意しましょう(各自治体の条例例)

 

「ピザ窯」との兼用という夢

設計段階でよくある悩みが、「せっかく積むならピザ窯も兼ねられないか?」という欲張りなアイデアです。

結論から言えば、可能です。

下段を燃焼室、上段を調理室とする「二層構造」にすれば、高火力でピザを焼き、その余熱や煙で燻製を楽しむというハイブリッドな運用ができます。

ただし、構造が複雑になり、必要な耐火レンガの数も増えるため、制作の難易度とコストは上がります。

さらに重要な点として、建築基準法等の観点から、補強のないブロック塀や組積造の高さには制限(一般的に1.2m以下など)が設けられています。DIYで高く積み上げることは、地震時の倒壊リスクを高めるため、国土交通省などが推奨する安全点検のポイントも参考に、欲張りすぎない高さを心がけてください。

まずは「燻製専用」としてシンプルに作るか、将来の拡張を見据えて基礎だけ大きく作っておくか。

自分のDIYスキルと相談して決めるのが、挫折しないコツです。

(出典リンク) 国土交通省|ブロック塀等の安全対策について(安全点検チェックポイント)

 

必要なもの、そして覚悟

レンガ積みDIYは、体力勝負です。

腰を据えて取り組むために、必要な材料と道具を整理しておきましょう。

 

「耐火レンガ」と「ブロック」の使い分け

ここが一番のポイントです。

すべての材料を「耐火レンガ」で揃えると、見た目は美しいですが、コストが跳ね上がります。

一方で、普通のコンクリートブロックは安価ですが、高熱にさらされ続けると割れるリスクがあります。

おすすめは、適材適所のハイブリッドです。

 

燃焼室(火床):耐火レンガ

直接火が当たる一番下の部分は、必ず「耐火レンガ」を使用します。

1000℃以上の熱にも耐えられる専用のレンガで、白っぽいクリーム色が特徴です。

 

外枠・土台:コンクリートブロック・赤レンガ

火が直接当たらない外壁や基礎部分は、安価なコンクリートブロックや、ホームセンターでよく見る赤レンガで十分です。

 

接合剤(モルタル類)

レンガ同士をくっつける接着剤です。

ここでも、「耐火モルタル」と「普通モルタル」を使い分けます。

火の当たる場所には熱で硬化する耐火モルタルを、それ以外には普通のインスタントセメントを使いましょう。

 

【実践】土台から煙突まで、石を積む日々

材料が揃ったら、いよいよ施工です。

焦らず、数週末に分けて少しずつ進めていくのが、大人のDIYの楽しみ方です。

 

Step 1:基礎を固める(一番地味で一番大事)

はやる気持ちを抑えて、まずは地面を整えます。

かまどを置く場所の土を少し掘り下げ、砂利を敷き詰め、固めます。

その上にコンクリート平板を敷くか、モルタルを流し込んで、水平な「基礎」を作ります。

ここが傾いていると、積み上げたレンガが崩れる原因になります。

水平器を使って、慎重に、慎重に。

この工程の手を抜かないことが、長く使えるかまどへの近道です。

 

Step 2:レンガを積む(無心になれる時間)

基礎ができたら、レンガを積んでいきます。

モルタルをケーキのクリームのように塗り、レンガを押し付け、はみ出した部分をコテで拭き取る。

この単純作業の繰り返しには、不思議と心を鎮める効果があります。

 

交互に積む「馬目地(うまめじ)」

レンガの継ぎ目(目地)が縦に一直線にならないよう、段ごとに半分ずつずらして積む「馬目地」という積み方が基本です。

これにより強度が上がり、地震などの揺れにも強くなります。

 

Step 3:庫内の構造を作る

燻製器としての機能を決定づけるのが、庫内の構造です。

 

網や棒を置く「棚」を作る

レンガを積む途中で、鉄筋や長いボルトを差し込んでおき、網やフックを掛けられる突起を作ります。

大きなベーコンを吊るしたいなら、高さが必要です。

最低でも60cm以上の高さを確保することをおすすめします。

 

扉の工夫

前面には食材を出し入れするための開口部が必要です。

耐熱塗装をした鉄板や木の板で扉を作りますが、最初は既存の「厚手の板」などを立てかけるだけの簡易的な蓋でも機能します。

密閉しすぎず、適度に煙が抜ける隙間があるくらいが、実は燻製にはちょうど良いのです。

 

完成した「炉」と暮らす

積み終わっても、すぐに火を入れてはいけません。

モルタルが完全に乾くまで、季節によりますが1週間程度は養生期間が必要です。

待つのもまた、燻製の一部だと思ってください。

 

最初の「火入れ」の儀式

モルタルが乾いたら、いよいよ火入れです。

最初は小さな火で、ゆっくりと全体を温めて慣らしていきます。

煙突の代わりにあけた隙間から、白い煙がすうっと立ち上る。

その光景を見たとき、きっと「ああ、自分の場所ができた」という深い満足感に包まれるはずです。

 

メンテナンスと付き合い方

レンガのかまどは、使っていれば必ずひび割れ(クラック)が入ります。

でも、それは失敗ではありません。

熱膨張と収縮を繰り返す「呼吸」のようなものです。

大きなひびが入ったら、またモルタルで埋めて補修すればいい。

そうやって手をかけ、煤(すす)で黒く汚れていくほどに、かまどは庭に馴染み、味わいを増していきます。

 

まとめ

庭にレンガを積むこと。

それは、単なる調理器具作りではありません。

休日の朝、コーヒーを片手に庭へ出て、かまどの様子を見る。

食材を仕込み、火を熾し、煙が流れるのをぼんやりと眺める数時間。

そんな「火と共にある時間」を、暮らしの中に常設することなのです。

まずは小さな一段からでも構いません。

無理に完璧を目指さず、あなたのペースで積み上げてみてください。

あなたの庭に、心安らぐ煙の匂いが漂う日を、私もここ安曇野から楽しみにしています。

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