週末の夜、冷蔵庫からよく冷えたビールやハイボールを取り出すとき、無性に欲しくなるのが「噛みごたえのあるおつまみ」です。
焼き鳥屋で食べる焼きたての串も最高ですが、自宅でじっくりと煙をまとわせた内臓系の燻製は、また格別の味わいがあります。
今回は、スーパーで手軽に手に入る「砂肝」「ハツ」「レバー」を使った、晩酌にぴったりの燻製レシピをご紹介します。
内臓系の部位は「下処理が面倒そう」「臭みが心配」と敬遠されがちですが、実はそのひと手間こそが、美味しい時間を過ごすための大切な儀式のようなものです。
丁寧に下処理をして、余分なものを取り除き、煙の魔法をかける。
そうして出来上がった一皿は、コリコリとした食感と濃厚な旨味が凝縮され、お店の味をも超える「自分だけの極上のアテ」になります。
この記事では、初心者の方でも失敗しないよう、特に重要な「銀皮」の処理や臭みの抜き方、そして安全に美味しく仕上げるためのポイントを、丁寧に解説していきます。
晩酌の主役に。内臓系燻製の魅力とリスク管理
砂肝やハツ、レバーといった鶏の内臓部位(モツ)は、独特の食感と強い旨味が特徴です。
これを燻製にすることで、煙の香ばしさが素材のクセを上手く包み込み、噛みごたえのある、まさにお酒泥棒な一品に生まれ変わります。
しかし、内臓系を扱う上で避けて通れないのが「鮮度」と「加熱」の問題です。
私が暮らすここ安曇野でも、新鮮な鶏肉は手に入りますが、それでも内臓系の調理には細心の注意を払っています。
農林水産省の注意喚起にもある通り、「新鮮だから菌がいない(生で食べられる)」というのは誤りです。市販の鶏肉には高い確率でカンピロバクターが付着している可能性があるため、鮮度に関わらず十分な加熱が必要です。
特に燻製は、外側が色づいていても中まで火が通っていないという失敗が起こりやすい調理法です。
カンピロバクターなどの食中毒リスクを避けるためにも、この記事では「安全第一」で、しっかりと中心まで加熱する手順を採用しています。
「生っぽいほうが美味しい」という意見もあるかもしれませんが、家庭での燻製においては、安全に美味しく食べ切ることこそが、長く燻製ライフを楽しむための秘訣だと私は考えています。
(出典リンク) 農林水産省:鶏料理を楽しむために~カンピロバクターによる食中毒にご注意を!!
【準備編】美味しさの9割はここで決まる。丁寧な下処理
燻製の工程に入る前に、まずは素材と向き合う静かな時間を持ちましょう。
特に砂肝の「銀皮」やハツの「血抜き」など、少し面倒に感じる作業こそが、仕上がりの雑味を消し、食感を良くするための鍵となります。
砂肝(すなぎも)の下処理
砂肝の特徴である「コリコリ」とした食感を最大限に楽しむために、硬すぎる部分は取り除いていきます。
銀皮(ぎんぴ)を取り除く理由
砂肝の両側についている青白い硬い皮を「銀皮」と呼びます。
これを残したまま燻製にすると、噛みきれないほど硬くなってしまい、せっかくの食感が台無しになってしまいます。
包丁を寝かせるようにして、身と皮の間に刃を滑り込ませ、この銀皮を削ぎ取ってください。
少し身が削れてしまっても構いませんので、あまり神経質になりすぎず、リズムよく作業していきましょう。
ちなみに、取り除いた銀皮は捨てずに、少し濃いめの醤油と生姜で炒めると、それはそれで素晴らしいおつまみになります。
切れ込みを入れて火通りを良くする
銀皮を取った砂肝は、火の通りを均一にするため、さらに半分に切るか、厚みのある部分に数カ所、深めの切り込みを入れておきます。
こうすることで、燻煙の香りが中まで入りやすくなり、加熱不足のリスクも減らすことができます。
ハツ(心臓)とレバー(肝臓)の下処理
ハツとレバーは、血液を多く含む部位であるため、特有の臭みを取り除く工程が欠かせません。
ハツの中に残る血を取り除く
ハツは、白い脂肪の部分を少し切り落とし、縦に切り込みを入れて開きます。
中を見ると、黒っぽい血の塊が残っていることが多いので、これを流水で指を使って丁寧に洗い流してください。
この血の塊が残っていると、燻製にしたときに雑味として強く感じられてしまいます。
※シンクで内臓を洗う際は、水が跳ねて周りの調理器具や食器に菌が付着しないよう、水流を弱くして静かに作業しましょう。作業後は、石鹸で手とシンクを念入りに洗うことを忘れずに。(参照:東京都福祉保健局「知って防ごう カンピロバクター食中毒」)
(出典リンク) 東京都保健医療局(食品衛生の窓):知って防ごう カンピロバクター食中毒
レバーの臭み抜きと脱水
レバーは一口大に切り分け、同じく流水で血を洗ったあと、ボウルに入れて冷たい牛乳(または塩水)に20分ほど浸しておきます。
牛乳に含まれる成分が、レバー特有の臭みを吸着してくれます。
その後、キッチンペーパーで水気をしっかりと、親の仇のように拭き取ってください。
水分が残っていると、煙が酸っぱくついてしまう(酸味が出る)原因になります。
【味付け編】シンプルか、タレか。焼き鳥風の味付け戦略
下処理が終わったら、味付けの工程に入ります。
基本の塩胡椒も美味しいですが、今回は「焼き鳥」のような香ばしさを目指してみましょう。
基本のソミュール液(塩水)に漬け込む
水、塩、砂糖、そして黒胡椒やローリエなどのスパイスを煮立たせて冷ました「ソミュール液」を作り、下処理した肉を半日〜一晩漬け込みます。
塩分濃度は少し高めのほうが、保存性が高まり、お酒に合う味になります。
漬け込みが終わったら、流水で30分ほど塩抜きをし、味を整えます。
焼き鳥のタレを活用する裏技
もし、「ソミュールを作るのが手間だ」と感じる場合や、より濃厚な味を求めている場合は、市販の「焼き鳥のタレ」を使うのも一つの手です。
ジップロックなどの密閉袋に肉とタレを入れ、軽く揉み込んで数時間冷蔵庫で寝かせます。
タレに含まれる糖分が、燻製したときにキャラメリゼされ、食欲をそそる照りと香ばしさを生み出します。
ただし、糖分が多いと焦げやすいので、燻す際の温度管理には少し注意が必要です。
【燻煙編】煙と熱で仕上げる、熱燻(ねっくん)の工程
いよいよ、ベランダや庭に出て火を扱う時間です。
今回は、食材に火を通しながら香をつける「熱燻(ねっくん)」という手法で行います。
徹底的な乾燥が成功の鍵
燻製器に入れる前に、食材の表面を乾燥させることが何よりも重要です。
塩抜きやタレ漬けが終わった肉は、キッチンペーパーで水気を拭き取り、網に乗せて風通しの良い場所で1〜2時間ほど風乾させます。
表面が乾いて少し指に吸い付くような状態になれば、煙が綺麗に乗る合図です。
夏場など気温が高い時期は、冷蔵庫の中でラップをせずに半日ほど置いて乾燥させる「冷蔵庫乾燥」をおすすめします。
温度管理とチップの選び方
スモークチップを一握り燻製器の底に入れ、中火で煙を出したら、食材を並べた網をセットして蓋をします。
温度計を見ながら、80℃〜100℃程度をキープし、20分〜30分ほど燻します。
チップの種類は、鶏肉と相性の良い「サクラ」や、クセが少なく万能な「ヒッコリー」がおすすめです。
私はよくサクラを使いますが、あの甘く強い香りが砂肝の淡白な味に重なると、驚くほど奥行きのある味になります。
中まで火が通っているかの確認
規定の時間が経過し、良い色がついたら、一番厚みのある砂肝を一つ取り出し、包丁で切って中を確認してみてください。
断面がピンク色ではなく、しっかりと白や灰色に変わって熱が通っていれば完成です。
もし火の通りが甘い場合は、燻製時間を延長するか、あるいはフライパンでサッと焼いて仕上げてしまっても構いません。
無理をして生焼けを食べるより、安全に仕上げることのほうが、美味しい記憶として残るからです。
厚生労働省では、カンピロバクター等の食中毒を防ぐため、「中心部を75℃以上で1分間以上加熱」することを推奨しています。見た目の色が変わることは一つの目安ですが、安全を期すなら温度計で数値を確認することをおすすめします。
(出典リンク) 厚生労働省:カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)
まとめ:コリコリの食感と煙の香りで、静かな夜を
出来上がった燻製は、すぐに食べたい気持ちを抑えて、できれば数時間から一晩ほど冷蔵庫で寝かせてください。
煙の角が取れて味が馴染み、よりまろやかな味わいになります。
お気に入りの皿に盛り付け、好みで七味唐辛子やレモンを添えれば、自宅が極上の居酒屋になります。
今回のポイントを振り返ります。
- 下処理を丁寧に:砂肝の銀皮、ハツ・レバーの血抜きは、食感と味の純度を高めるために必ず行う。
- 水分を拭き取る:乾燥が甘いと酸味の原因になるため、燻す前は徹底的に表面を乾かす。
- しっかり加熱する:内臓系は食中毒リスクがあるため、中心まで火が通っているか必ず確認する。
- 焼き鳥のタレも活用:手軽に濃厚な味を楽しみたいときは、市販のタレも有効な選択肢。
砂肝のコリコリとした歯切れの良い音、レバーのねっとりとした舌触り、そして鼻に抜けるスモーキーな香り。
それらを冷たいお酒で流し込む瞬間、日々の忙しさが少しだけ遠のいていくような気がします。
今度の休日は、少しだけ手間をかけて、自分のための「最高の一皿」を作ってみてはいかがでしょうか。



コメント