「チップ」と「ウッド」どっちを使う?燃焼時間の違いと正しい火の付け方

やり方

ホームセンターのアウトドアコーナーで、燻製用品の棚の前に立つと、ふと手が止まってしまうことがあります。

「スモークチップ」と「スモークウッド」。

見た目も名前も似ているこの二つ、一体どちらを選べばいいのか、最初は迷ってしまうものです。

私も燻製を始めたばかりの頃、適当にチップを買って帰り、どうやって火をつければいいのか分からず、ベランダで途方に暮れた経験があります。

あの時のチップの袋の頼りない感触と、夕暮れの冷たい空気は、今でも苦い記憶として残っています。

結論から言うと、この二つの最大の違いは「熱源が必要かどうか」という点にあります。

特にこれから燻製を始める方や、「せっかく火をつけたのに、すぐ消えてしまう」という悩みを持っている方には、スモークウッドの正しい扱い方を知ることが、失敗しないための一番の近道です。

今回は、燻製の基本でありながら実は奥が深い「スモークウッド」の使い方について、チップとの違いや、火を絶やさないためのちょっとしたコツを、私の失敗談も交えながらお話しします。

 

スモークウッドとスモークチップ、決定的な「違い」とは

まずは、この二つの根本的な違いを整理しておきましょう。

どちらも「木を細かくしたもの」であることに変わりはありませんが、その使い勝手と役割は驚くほど異なります。

 

熱源が必要か、単体で燃えるか

最大の違いは、煙を出すための仕組みです。

スモークチップは、木を細かく砕いたチップ状のもので、それ自体に火をつけて燃やすわけではありません。

コンロや電熱器などの「下からの熱源」でチップを炙り、その熱で焦げることによって煙を出します。

つまり、チップを使う場合は、常にコンロなどの熱源とセットで使う必要があります。

一方、スモークウッドは、粉状にした木材を棒状に固めたものです。

こちらは線香や蚊取り線香と同じ原理で、一度端に火をつければ、熱源がなくても自分自身が燃え続けながら煙を出し続けます。

この「熱源がいらない」という手軽さが、スモークウッドの最大の魅力だと私は思っています。

 

温度帯による使い分け

この仕組みの違いは、作れる燻製の種類(温度帯)にも直結します。

スモークチップは下から熱を加えるため、どうしても燻製器内の温度が高くなりがちです。

そのため、80℃以上の高温で食材を加熱しながら燻す「熱燻(ねっくん)」に向いています。

短時間で色づき、食材に火を通したい場合や、キャンプ場でワイルドに楽しむ燻製にはチップが適しています。

対してスモークウッドは、熱源を使わないため、温度管理が非常にしやすいのが特徴です。

燻製器内の温度を上げすぎず、30℃〜80℃程度の「温燻(おんくん)」や、さらに低い温度の「冷燻(れいくん)」を行うのに最適です。

チーズやナッツ、ベーコンなど、じっくり時間をかけて香りをつけたい食材には、スモークウッドを選ぶのが正解です。

 

失敗しないスモークウッドの使い方【基本編】

スモークウッドは「置いておくだけ」で燻製ができる非常に便利なアイテムですが、正しく使わないと失敗の原因になります。

ここでは、基本的な道具と手順を丁寧になぞっていきましょう。

 

必要な道具と「皿」の選び方

スモークウッドを使うために必要な道具はシンプルです。

まずはスモークウッド本体、そして着火するためのバーナーやコンロ、そしてウッドを乗せるための「皿」です。

この「皿」選びが意外と重要で、適当な可燃物の上に置くのは絶対に避けてください。

ウッドは燃焼中、かなりの熱を持ちます。

多くの家庭用燻製器には、最初から金属製の専用皿が付属していることが多いので、基本的にはそれを使えば問題ありません。

もし専用皿がない場合や、段ボール燻製などで代用する場合は、ステンレス製のバットやアルミホイルを厚く敷いたものを使いましょう。

ただし、アルミホイルを直接ウッドに巻きつけるのはおすすめしません。

空気が遮断されてしまい、火が消える原因になるからです。

また、燻製器の熱が接地面に伝わり、下のテーブルや床が焦げたり発火したりする事例もあります。NITE(製品評価技術基盤機構)の事例でも報告されている通り、使用中は燻製器から目を離さず、必ず不燃性の台やシートの上で行うようにしましょう。

(出典/参考リンク) 最新の製品事故情報・注意喚起(NITE・製品評価技術基盤機構)

 

正しい火の付け方と置き場所

準備ができたら、いよいよ着火です。

スモークウッドの一方の端に、バーナーやコンロの火を当てます。

このとき、「ちょっと火がついたかな」程度でやめてしまうのが、初心者が最も陥りやすい失敗です。

スモークウッドは圧縮された木材なので、表面だけが燃えていても、芯まで火が回っていないとすぐに消えてしまいます。

火がついた部分がしっかりと赤くなり、煙がもくもくと安定して立ち上るまで、しつこいくらいに炙るのがコツです。

火がついたら、そっと燻製器の中の皿に置きます。

このとき、食材から落ちる脂や水分がウッドにかからないよう、位置を調整してください。

脂が落ちると、そこから引火して温度が急上昇したり、逆に水分で火が消えてしまったりすることがあるからです。

 

「火が消える」「燃えない」トラブルの解決策

「数分後に様子を見に行ったら、煙が止まっていた」

これはスモークウッドを使っていると誰もが一度は経験する、あるあるのトラブルです。

私も何度、冷たくなった燻製器を開けてため息をついたかわかりません。

なぜ火が消えてしまうのか、その原因は大きく分けて二つあります。

 

原因1:着火不足と「断面」の炙り方

一つ目の原因は、先ほども触れた「着火不足」です。

特に、バーナーの火力が弱かったり、炙る時間が短かったりすると、一見燃えているように見えてもすぐに鎮火してしまいます。

これを防ぐためには、ウッドの角だけでなく、「断面全体」を均一に真っ黒になるまで焼くことが大切です。

そして、炎が上がっている場合は、息を吹きかけて炎を消し、炭のように赤く燃焼している状態にします。

フゥーっと息を吹きかけたときに、着火した面全体が真っ赤に輝く状態になっていれば、まず消えることはありません。

このとき、チップが焦げる前の少し甘いような香りがしてくると、「ああ、うまくいきそうだ」と少し安心します。

 

原因2:酸素不足と空気の通り道

二つ目の原因は「酸素不足」です。

火が燃え続けるためには酸素が必要です。

燻製器を密閉しすぎて空気の入り口(吸気口)と出口(排気口)が塞がれていると、酸欠状態になって火が消えてしまいます。

特に、段ボールで自作した燻製器などでは、この空気穴が不十分なことが多いです。

煙を逃したくない気持ちはわかりますが、煙突効果を作るためにも、空気の通り道を確保してあげましょう。

また、ウッドを皿に置く際、底面がべったりと皿に密着していると、その部分の通気が悪くなり、燃焼が止まってしまうことがあります。

網の上に乗せるか、少し浮かせるような工夫をすると、最後まで燃え尽きてくれます。

 

便利な道具:トーチバーナーの活用

これらのトラブルを解消し、快適な燻製ライフを送るために、私が心からおすすめしたい道具があります。

それが「ガスのトーチバーナー」です。

カセットボンベに取り付けて使うタイプのもので、1,000円〜2,000円程度で手に入ります。

キッチンのコンロやライターでは、ウッドに火をつけるのにどうしても時間がかかりますし、手元が熱くなって危険です。

トーチバーナーなら、強力な火力で一気に、かつピンポイントにウッドを炙ることができます。

「火をつける」という作業のストレスがなくなるだけで、燻製に向き合う気持ちがぐっと楽になります。

料理の炙りやキャンプの火起こしにも使えるので、一本持っておいて損はない「火の相棒」です。

ただし、ガストーチバーナーは便利な反面、ボンベの接続不良や傾けての使用による火災事故も報告されています。製品評価技術基盤機構(NITE)なども注意喚起を行っていますので、必ず取扱説明書をよく読み、ボンベを正しく装着して使用してください。

(出典/参考リンク) 事故原因の7割が製品に問題 ~ガス“漏れ”バーナーに新たな規制(NITE・製品評価技術基盤機構)

 

燻煙時間と補充のタイミング

最後に、スモークウッドの時間管理についてお話しします。

スモークウッドは、長さによって燃焼時間を調整できるのが大きなメリットです。

 

1本で何時間持つのか

一般的なスモークウッド(長さ30cm程度のもの)は、1本丸ごと燃焼させると、およそ4時間から5時間ほど煙が出続けます。

パッケージに目安の時間が記載されていますが、気温や湿度、風通しによって多少前後することを覚えておいてください。

例えば、人気のアウトドアブランドSOTOの公式情報でも、1カット(約80g)で約1.5時間、3つ連結させて約5時間と案内されています。メーカーの公称値を基準にしつつ、当日の風や気温に合わせて調整するのが確実です。

もし「今回は2時間だけ燻したい」という場合は、ウッドをパキッと半分に折って使います。

この「パキッ」と折る感触も、準備の一環としてなかなか悪くありません。

逆に言えば、ウッドの長さを定規のように見ることで、タイマーがわりにもなるわけです。

例えばプロセスチーズなら2時間程度、半分の長さで十分ですし、ベーコンを作るなら1本丸ごと使う、といった具合に調整します。

(出典/参考リンク) スモークウッド ブレンド ST-1556(SOTO|ソト 公式サイト)

 

途中で継ぎ足す「補充」のコツ

長時間燻製をする場合や、予想より早く燃え尽きてしまった場合は、途中で新しいウッドを補充します。

このとき、いちいち新しいウッドにバーナーで火をつけ直す必要はありません。

新しく追加するウッドを、今燃えているウッドのお尻に「接触させるように」置くだけでOKです。

線香の火が移るように、自然と新しいウッドに火が乗り移り、燃焼が継続します。

長時間、低温でじっくり燻したいときは、複数のウッドを「コ」の字型や「L」字型に並べておくと、長時間放置していても勝手に火が進んでくれます。

 

まとめ

スモークウッドは、熱源を使わず、置いておくだけで煙を出してくれる、燻製初心者の強い味方です。

チップとの違いは「単体で燃えるかどうか」であり、温度管理がしやすいため、チーズやナッツなどの温燻に最適です。

火が消えてしまうトラブルの多くは、最初の着火不足か酸素不足が原因です。

ウッドの断面全体が赤くなるまでしっかりと炙り、空気の通り道を確保してあげることで、煙は静かに、長く立ち上り続けます。

煙が出ている数時間、ただ待つというのも、忙しい現代においては贅沢な時間です。

本を読んだり、お酒を飲んだりしながら、時折ベランダの様子を眺める。

火が消えていないかを確認しにいくだけでも、そこには自分だけの静かな時間が流れています。

そんなゆったりとした「燻す時間」を、ぜひ楽しんでみてください。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました